2019年6月末、サンディエゴ・パルセイロ・レディースの2年目となるシーズンが幕を閉じた。
SDパルセイロはカリフォルニア州サンディエゴを拠点にアメリカ、日本、世界を繋ぐ架け橋となり、女子サッカー選手へ夢や教育、人間形成の場を提供する事を目的に活動している。未来を担う女子サッカー選手達がアスリートとしてのみならず、一人の人間として自身の足で歩いていける「人創り」を目指し、昨年このプログラムは始動した。SDパルセイロにとって初めてのシーズンとなる昨年は、2勝5敗1分カンファレンス4位(5チーム中)という結果で幕を閉じた。(昨シーズンの様子はこちら)
今年のチームは昨年も在籍していた選手数名を中心とし 、University of San Francisco, San Diego State University, Loyola Marymount University, University California IrvineなどNCAAディビジョン1に君臨する4年制大学でプレーした経験を持つ選手、そして カリフォルニア州内のNCAAのD2やNAIAのコミュニティカレッジでプレーしていた選手も新たにチームへと加わりシーズンをスタートさせた。
SDパルセイロはWPSL(Women’s Premier Soccer League)と呼ばれるアメリカ女子サッカー界の2部リーグに所属している。WPSLはアメリカ合衆国内で女子サッカーのアマチュア最高峰リーグの為、レベルが高いことで知られており、ディビジョン1の4年制大学からの参加はもちろんのこと、WPSL経験後アメリカ代表に選出される選手や1部NWSL(National Women’s Soccer League)にキャリアアップする選手、ヨーロッパへ進出する選手も少なくない。いわゆるアメリカ女子サッカー選手の登竜門である。
そんなレベルの高いリーグで闘うSDパルセイロだが、今シーズンより2名の日本人選手もチームに加わった。中津留聖華 選手(写真左)は2年前に渡米し、 パロマーカレッジに在籍、語学留学に励む傍、女子サッカー部にも所属していた。今年5月、無事にパロマーカレッジ を卒業し、9月からはカリフォルニア州立大学サンマルコス校への3年次編入学が決定している。
森本琴音 選手(写真右)は今年の3月に高校を卒業し、語学留学、及びアメリカという地でサッカーに挑戦したいと渡米を決意。現在、彼女はSDパルセイロに所属する傍、現地の語学学校にてアメリカのコミュニティカレッジに入学する為、TOEFL合格を目指し猛勉強中だ。
そんな個性溢れる選手達を迎えたSDパルセイロだが、昨年と大きく変化したことは選手だけではない。選手時代キーパーとしてサンフランシスコ大学(NCAAディビジョン1)で活躍した経験を持つStephanie Beall氏がSDパルセイロの新ヘッドコーチに就任したのだ。Beall氏は2006年より指導者としてのキャリアを歩み始め、これまで母校であるカリフォルニア州立サンフランシスコ大学やアイダホ州立大学をはじめとするNCAAディビジョン1の4年制大学でアシスタントコーチを務め、今年Beall氏にとって初となる “ヘッドコーチ”という大役に抜擢された。
こうして新しい監督、選手を迎えSDパルセイロの2年目のシーズンは始動した。
高いレベルでプレーした経験を持つ選手が揃い期待のかかる今年のチームだったが、シーズン終盤までなかなか勝利を収めることができず苦しんだ。
その一つの理由としてチーム編成の難しさが挙げられる。リーグのシステム上、毎年選手の入れ替わりが激しく、チームには学生もいれば仕事を持つ社会人の選手もいる。その為、チームに合流出来るタイミングは選手各々によって異なり、大学の部活動のように足並みを揃えチーム練習を行う事がやや難しい。そんな状況の中でも、このリーグで勝ち抜く為にはシーズン内の僅か数ヶ月で“組織力”を構築することが鍵となる。
6月29日、今シーズン1勝も収める事が出来ないまま最終戦を迎え、その試合の数週間前に4−3で敗戦を喫したASC SAN DIEGOとホームで一戦を交えた。
両チームにとって今シーズン最終戦ということもあり会場が活気に溢れるなか、試合開始を告げるホイッスルがフィールドに響き渡った。
前半 18分、SDパルセイロのTally Romaine選手(SD Christian College)が先制点を決めると、更に1分後再びRomaine選手が2点目となるゴールを決め、チームを大きく勢いづけた。流れに乗ったSDパルセイロは、前半終了間際の43分、日本人選手の森本琴音選手が仲間からのパスを受け取ると、ゴールキーパーの動きを冷静に読みミドルシュートを放ち、見事ゴール。彼女にとって今シーズン初ゴール、チーム3点目となるゴールを奪い前半3−0と相手を大きくリードして前半を折り返した。そして後半71分、相手に1点を奪い返されたものの、彼女達は最後まで攻めの姿勢で闘い続け見事3−1で今シーズン初勝利。最終戦にして大きな白星を挙げた。
彼女達は勝利の喜びを分かち合い、会場も歓喜に溢れていた 。今シーズンなかなか勝利を収めることが出来ず彼女達にとっては苦しい状況が続いていたが、そんな中でも彼女達は常に明るく前向きだった。それは今年のSDパルセイロの強みであり、彼女達の最後まで諦めない気持ちが最終戦の勝利へと繋がったのだろう。SDパルセイロにとって2年目となった今シーズンは青空の下、勝利と彼女達の最高の笑顔で幕を閉じた。
2019年のシーズンは終了したが、選手達の挑戦はまだまだ続いている。SDパルセイロでの経験は彼女達にとってサッカー選手としてのみならず、今後の人生の糧となることだろう。
今シーズンより2名の日本人選手がチームへ加わったが、先日行われた2019年FIFA女子ワールドカップにて世界の頂点に立ったアメリカ、そんな高い技術を誇るアメリカで現地の選手に混ざりサッカーを学ぶ事は彼女達の大きな成長へ繋がる。また、このWPSLこそが日本人選手にとってアメリカのトップチームへ進出する道への第一歩となるのだ。
この2名の日本人選手のように他国からの留学生がチームに加わる事で、留学生のみならず現地のアメリカ人選手にとってもSDパルセイロは異文化交流の場となる。互いのサッカー技術の強みを学ぶことでチームの可能性も大いに広がり、これこそが今後SDパルセイロの強みとなるだろう。
SDパルセイロは選手に夢や教育、人間形成の場を提供することを目的とし活動している。国籍を問わず、選手達がSDパルセイロを経て、ひとりの人として成長し、世界各国へ羽ばたいていけるようなきっかけ作り、これがこのチームに課された使命である。
今後もサンディエゴ・パルセイロ・レディースのさらなる活躍に期待したい。